トラウマのうそ本当

「トラウマ(心的外傷)」はもともと心理用語ですが、今では普通に使われています。

身体と同じように、心も衝撃を受ければ傷つきます。
そして、身体と同じように、自分でその傷を癒すことができます。

生き物には、生まれ持った自然治癒力があります。小さな傷を作ったからと言って、通常は病院に行くことはありません。清潔に保護しておけばいつの間にか治っているものです。
同じように、ショックを受けて心が一時的に傷ついても、徐々に辛さは薄れ、やがて思い出すことも少なくなります。

大きな怪我をすれば、治癒までにかかる時間は長くなります。痛みや傷の程度によって日常生活にも影響が出ます。
心も、強いショックを受けて大きく傷つくと、すぐには回復できなくなります。同時に、日常生活に影響するような症状が出てくることが普通です。
特徴的な症状に、その時の情景が何度もよみがえるフラッシュバックや、体験を想起させる場所や状況を避けようとする回避、不眠や強い不安をもたらす極度の緊張(過覚醒)、があります。
この状態は「急性ストレス障害(ASD)」と呼ばれ、むしろ自然な反応です。また、強いショックの原因となった体験を「トラウマ体験」と呼びます。

急性ストレス障害は苦痛を伴う辛い症状ですが、急性とは一過性ということです。辛い時期を乗り越えれば、一ヶ月以内に回復します。

怪我をして出血がひどかったり、骨が折れていたりしたら、処置をして安静にしていなければ治りません。
心の傷にも同じことが言えます。ストレス障害からの回復には、安心できる環境と体験を自分なりに消化する時間が必要になります。

一ヶ月を過ぎても症状が治まらないことがあります。これが「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」です。本来なら自然に回復するはずが、そう出来ずに苦痛が継続している状態です。

さて、少し記憶についてお話させてください。
何か出来事があると、人はその体験毎にカテゴリーと重要度を決定し、記憶として保存します。
記憶の重要度は、その時の感情の種類と強さで決まります。人によって感じ方は異なり、出来事の一般的な重要度ではなく、その人がどれだけショックを受けたか、が判断の基準になります。
ところが、ショックが大きすぎて、いわば感情の針が振り切れたような状態になると、その体験をうまく記憶に処理できなくなります。この反応自体は「防衛」という自然な作用です。
出来事の細部やその時の感情など、その場での様々な情報は、意味を持つ体験として統一されずバラバラの状態に留まっています(断片化と言います)。
断片であっても個々の情報がなくなる訳ではありません。そうしてストレス障害の症状が現れます。

断片化した情報がいつまでも断片のまま処理されずにいる、記憶にならない状態がPTSDです。
記憶にならない、ということは思い出せない、ということでもあります。記憶庫に保管されていない情報は引き出しようがないからです。
本当のトラウマ体験は、思い出すことができないのです。
大きな災害または事故や事件のような酷く辛い経験をすると、そこだけスポッと記憶が抜けていることも実は珍しくないのです。

体験が記憶になるとは、過去の出来事になる、と言うことです。
過ぎたこと、今はもう直接の影響を受けないことだからこそ、悲しみや痛みも、いずれ忘れることができます。
けれど、記憶になれなかった体験は、ずっと「今、ここ」のまま取り残されます。
PTSDの辛さは、苦痛を受けた体験を思い出すから湧いてくるのではありません。今、まさに起きた時と同じ苦痛を味わっているのです。

「忘れる」ことは、贈り物(ギフト)だと言われます。「忘れる」ことと引き換えに人の心は安定していられます。

ちょっと傷ついたり、驚いたりした時に、気軽に「トラウマになった」などと言ったりします。

本当のトラウマは思い出すことができません。
本当のトラウマは、ちょっと怖い存在です。

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